安部公房

第四間氷期    砂の女  他人の顔  密会
燃えつきた地図  壁     夢の逃亡  方舟さくら丸    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安部公房について
読んだのは7〜8冊。それ程入れ込んでいる訳ではないが、一筋縄ではいかない部分に惹かれる。「燃えつきた地図」、「密会」あたりが特にシンクロする。暗いといえば暗い。「密会」は特に、引きずり込まれていく感覚があり、読んでいると、自分だけが回りの世界から離脱している様な気分になった。
ネットを調べると、様々な研究サイトがあり、それなりに「こう読むヤツもいるのか」という発見もある。
 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
燃えつきた地図 安部公房 新潮文庫  

燃えつきた地図

興信所の調査員。半年前から失踪している夫の調査を依頼した女の元に出向く。
印象の希薄な女。手掛かりは喫茶店のマッチだけ。

淡々と職務に忠実に従うと思われた男が、次第に失踪した男のエリア(精神世界)に引きずり込まれて行く。
依頼者の実弟。喫茶店はもとより、失踪した男の職場(燃料店)への聞き込みに行くと、そこでも出会う。
失踪した男の部下だった田代の語る、彼の別の人格。だがその話には虚言があった。
実弟の死。失踪した男の裏の職業。
田代も結局自殺。
男自身も妻との確執で別居状態。帰る所を持たない身の上。

興信所も辞め、職業としてではなく真相を追う男。調査の中で襲われた後、依頼者の女の元へ。ひとときの安息。
彼女の家を辞して歩き出す男。見慣れた筈の風景。だが歩き出す先の景色には見覚えがない。次第に記憶があいまいになって行く中で帰るべき場所を見失って行く…・・

数回読んでいるが、出張が続いたのでフッと今回読んだのが数年振り。
新聞、コーヒー、ガソリン代。こと細かに当時の金額がトレースされ、ややシラける感じがあるが、彼とて小説家。これも後世で読まれた時の時代背景を浮き彫りにする手段なのか。
燃料店の課長だった根室を追ううちに、対象とする者を次第に見失って行く過程がジワジワと迫って来る。逢う度に増大していく依頼者の女に対する思い入れ。ただ性的に求めているわけではなくて、失踪する事自体に対する思い入れなのか。

最後の30ページあまりは、何度読み返しても難解であると共に、惹かれてしまう。
「過去への通路を探すのは、もうよそう」
最後が案外ポジティブな締めで終わっているのも、ちょっと救いがあっていい。ただ、それは失踪礼賛という事なのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
密会 安部公房 新潮文庫 1983

突然、妻が救急車で病院に連れ去られる。男は妻を取り戻すために病院に乗り込むが、副院長、警備主任とのやりとりの中で、次第に病院という組織に取り込まれて行く。妻を取り戻そうとする行為が、ことごとく別の行動にすり替わっていき、それ自身に男も別段違和感を感じていない。いつの間にか男は病院の臨時職員として登録されていた。
妻の情報をつかむために院内の盗聴記録を調べるが、それは「馬」(副院長)の陰謀。
副院長の女秘書に、妻の事を聞かれるが、本質的な部分について答えられない自分に対して不安を感じていく。
不能の副院長は、あらゆる手段を使って性的機能を回復させるのが目的の男。様々な実験の中で副院長の正体が明らかになっていく。

コメント
あらすじを書いているうちに、やや虚しくなる感覚があり、途中で止めた。いちいち説明していると、この状況を他人に理解させようとする行為そのものが無意味な感じがする。
妻を捜している筈の男が、混乱の中で、様々な登場人物に翻弄されながら追い詰められていく。副院長、女秘書、警備主任、溶骨症の少女・・・・・・・・
副院長の主催する「オルガスム・コンクール」でめざましい活躍をする仮面女(自分の妻かも知れない)。自分が壇上に上がり、まさにその仮面女に対峙した時でさえ、妻であるとの確信が持てない。
対決から逃れ、溶骨症の少女を連れ出して病院内をさまよう男。
最後に残るせつない気持ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
第四間氷期 安部公房 新潮文庫 1970

予言機械の開発部をとりまとめる「私」 モスクワ1号と技術を競っている。
個人の行動を予言する事で機械の能力を誇示(評価)することを提案。ある男をターゲットとして尾行。男はあちこち歩き回ったあげく女のところへ。だが男は殺された。
死んだ男の記憶を再生させるための行動をおこす。そして搬入した死体の分析。予言機械により死んだ男の記憶が蘇る。男の行動を、時間軸を戻して分析。男が生きていると思い込ませて話を引き出す。
男は妻のある身で女に入れ込んでいた。子供はいない。ある時、女が妊娠したと聞いて喜ぶが、女は中絶。女から、妊娠してから3週間以内に中絶をしに来ると、手術をした上、金をくれる病院がある事を聞かされる。
「私」の妻。妊娠初期だったが、何者かにだまされて誘い出され中絶手術。
帰りに、先の女と同額の金を渡されていた。胎児売買の疑い。
同僚の頼木が「水棲犬」の写真を見せる。エラを持ち、水中で生活出来る新種。その研究所へ。
水棲ネズミから、ウサギ、犬、牛。昆虫の変態からヒントを得た水棲化技術。
異常高温、人間のエネルギー消費によるCO2の増加。第四間氷期の終わりに火山の噴火、気候の急変等が起り激しい水位上昇。人間は地上に住めなくなる。
それを前提とした人類の水棲化計画。胎児に発生途中での変化を加えて水棲人間にする。
予言装置の語る人類の未来・・・・・・
コメント
初めは技術的にもちょっとアヤシイ導入で少し違和感がある。ただ彼独特の技術センスであり、単に技術の整合性にとらわれない視点が、これはこれで好ましい。
胎児を買い取り改造して水棲化させるという、倫理的にはかなりヤバいテーマを淡々と描くのは、この現代で子供を作ることに対しての、彼なりの「畏れ」があったのか?。中絶も含め、ごく単純に「子供は出来るもんだ」という安易な考えに対する警鐘でもある。人間の場合、子供は相当な覚悟を持って作るべきなのかも知れない。
この小説は1958年に「世界」に連載されたとあり、コンピュータによる予測技術、遺伝子操作、人類による地球環境の破壊等に対し、極めて先進的な視点の持ち主だったことを痛感する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版
砂の女       安部公房    新潮文庫 

まあ、恋愛小説なのだろう。とある砂丘にやって来た昆虫採集家が、帰りのバスを乗り過ごし、村人の好意で家を紹介される。家はみな、すり鉢状の穴の中に建てられており、縄ばしごで降りていくとそこには女が・・・・
夜通し続く砂掻き作業。一晩だけのつもりが、次第にその世界に取り込まれて行く。脱出を試みるが逃げられない。
閉じ込められた空間での男の意識の変化。こんな穴の中でそれなりの幸せを感じている女に対する反発が、時の経過とともに変容していく。  


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版
他人の顔     安部公房    新潮文庫 

薬品関係の技術者。事故で液体酸素を顔に浴び、素顔を人に晒せない状況になる。妻との関係も微妙に変化し、疎外感を深めていく。
自分の顔を作る事を決意。徹底した調査、研究。克明な仮面製作の記述。非常な努力の末に仮面は完成。
見知らぬ男として妻に近づき、そして誘惑。応える妻に対する不信、混乱。
妻は全てを知って、男に応えていたのだった。そして男から去っていく。

顔のせいで妻に嫌悪されていると思い込んだ男。事故の後も妻は何も変わっていなかったのに。「仮面をかぶろうと、かぶるまいと、そのあなたにはなんの変りもなかった・・・」去っていく妻の言葉。
大江健三郎の解説が深い。

 

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