海外

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
変身 フランツ・カフカ  新潮文庫   

「変身」フランツ・カフカ

外交販売員のグレゴール・ザムザ。
ある日目を覚ますと自分の体が巨大な毒虫になっているのを知る。
初めて読んだのは高校生の時か。薄い本なので手軽に持ち歩き、数回読んでいるが、つい最近また読む機会があった。
一家を支えて来た若者が突然芋虫の姿になってしまう。そんな姿になっても仕事に出掛けようとするグレゴール。以前はかなりの違和感を持って読んだ。
苦労の末カギを開けたグレゴールが姿を見せた時、全ての事態が明らかになる。
それ以来、彼は自分の部屋に幽閉され、いままで彼の収入に頼っていた一家は次第に各自の出来る範囲で収入を得る行動を開始する。
芋虫となった彼は次第にその状態に慣れ、精神は人間を保ちながらも次第に「芋虫」としての行動スキルを獲得していく。

芋虫になったグレゴール。あまりにも不条理でふざけた設定だが、異常な状態になって部屋に閉じ込め(または本人が引きこもり)、一家としてはそれを隠して必死に普通の社会生活を継続しようとする。異常な状態の定義は様々だが、こういう設定はさほど珍しくない。
誰でも「芋虫」になり得る。
「芋虫」を抱え込んだ時、家族はどういう行動を取るのか。見方を変えると不条理劇が突然リアリティを帯びてくる。
事業に失敗して早々に仕事から退き息子の収入に頼っていた父親は、何処からか仕事を見つけて来て、再び家長としての威厳を取り戻す。
気が動転して息子を拒絶する母親。
妹が精神面では最も人間としての兄を認識して、食事、部屋掃除の役目を果たしているが、それも次第にストレスとなって積み重なって行く。
トラブルが発生し、妹まで「放り出しちゃうのよ」とヒステリックに叫ぶ状況になった時、「芋虫」はひっそりと死んでいく。

「芋虫」の側に立ってものを考えるのは、本当に恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
銀河帝国興亡史 アイザック・アシモフ  ハヤカワ文庫  1984

天才科学者ハリ・セルダン。彼の提唱により帝国の滅亡を救うために「ファウンデーション」が設置される。
そのファウンデーションと帝国との戦いというのが基本的な図式だが、SFというより社会のシミュレーションとして非常に興味深く、長編だがほとんどストレスなく読み進む事が出来る。
資源を持たない国「ターミナス」はかなり日本に近い印象があるが、この小説が書き始められたのは第二次大戦中だったとの事で、アシモフの経済に関する視点の高さを感じる。
自分が読んだのは4巻までだが、まだ続編が出ている様だ。    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
ソラリスの陽のもとに スタニスワフ・レム  ハヤカワ文庫  1977

意思ある海を持つ惑星「ソラリス」さまざまな調査が繰り返されたが、その本質は明かされる事なく、ソラリス研究は縮小され、3名の研究員が派遣されるに留まっていた。
その研究員らに異変があり、調査に向った科学者クリス・ケルビン。
3名のうち1人は死亡。残りの2名もかたくなにクリスを避ける。彼ら2名以外に何者かが存在している!。
普遍的な計算を繰り返して、自身が正常である事を確認しているクリスのそばに、10年前に自殺したはずの妻「ハリー」がいつのまにか座っていた。
人の心を投影したものが形となって現れる。クリスの場合はたまたま自殺した妻であり、まだしも救いがあるが、他の者に現れた者は、必ずしも好ましい相手ではなかった。ロケットで宇宙空間に放り出しても、また現れる。
胸を締め付けられる様な恐怖感。
だが、状況が判ってくるにつれ、次第に自分の存在に疑問を持ち始めるハリー。ついに自ら液体酸素を飲んで自殺を図る。肺が焼かれ、喉もただれ、すさまじい苦悶の中、死んだと思われたハリーは、また蘇る。
一体、この海は何のためにこの様な事をするのか。
ハリーはもう一人の科学者スナウトに頼んで、自らを消滅させる。
さまざまな感情の繰り返しの中で、次第にハリー(死んだ妻ではない)を愛し始めていたクリスは、ハリーが本当に居なくなったことで、一つの決心をする。

コメント
映画を観てから本を読むというパターンで読んだもの。
SFとして、非常に良く出来ている。大きな意味で、テーマは「愛」
死んだ筈の妻。常に一緒の行動を取ろうとし、閉じ込めると信じられない破壊力でドアを壊してまでクリスを追う。怪物としての彼女が次第に自分の個性を持つに従って、クリスの側にも変化が現れる。海は、それらの精神活動に興味を持っているのか。海としての主張は少ないが、登場人物を通して海の存在感がひしひしと伝わってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
人間の絆      サマセット・モーム  新潮文庫  1960

幼くして両親に死に別れ、子供のいない叔父夫婦に引き取られた少年フィリップの、9歳から30歳あまりに至るまでの前半生を描いたもの。彼の自伝的小説と言われている。
20代前半に読んだ。今回、ふと読み返そうという気になり、全4巻を買った。前半の2巻を読むのに1ケ月、残りの2冊は1日で読み終えた。       

ここで言う「絆」は、人間どうしを支えあう善の意味ではなく、情念に支配され制御し得ない無力な「縛られた(Bondage)」状態のことであり、絆に縛られた一人の人間が、その絆を断ち切って自由な人間になるまでの話。
叔父夫婦の期待を裏切り、学業を中途で止めてパリへ絵の修行に行くが、そこでも芽は出ない。
知り合ったミルドレッドに対する献身と挫折。フィリップをいとも簡単に裏切り、また何度でも利用する悪婦。
様々な曲折の末に、結局途中で止めていた医学の勉強に戻るフィリップ。
その後知り合ったアセルニー家との出会いにより、精神的に救われていくフィリップ。

人間の生を、幸福という尺度でとらえる必要はない。人の一生はもっと他のもので計られてもいい。
人生の終わりが近づいた時、一つの芸術品が完成した事を喜ぶ気持ち。そしてそれを知っているのは自分ひとり。死とともに一瞬にして失われてしまおうとも、その美しさには変わりない。

人生を大過なく、順調に歩んできた人間には、その感覚は判りにくいであろう。知識、努力では得られない、一種の諦観も必要。  (2003/2/8)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
月と六ペンス サマセット・モーム  新潮文庫  1959

チャールズ・ストリックランド。株のブローカー。結婚17年で一男一女の父親。
それが突然仕事、家族を捨ててパリに出る。理由は「絵を描くため」
生活は困窮し、絵を評価される事もほとんどないが、全く意に介さない。

5年後のパリ。相変わらず貧しい生活の中で絵を描いているストリックランド。
唯一の理解者であるダーク・ストルーヴ。だが、彼を容赦なく罵倒するストリックランド。
ある時、ストリックランドが重病になり、ストルーヴは強く反対する妻のブランシュを押し切って家に彼を
引き取り、世話をする。ブランシュは、毛嫌いするも引き受けた義務感から献身的に看護を行う。
回復した後、ブランシュはストリックランドを愛する様になってしまい、ストルーヴを無残に見放す。
だが、それも長くは続かず、ストリックランドに捨てられたブランシュは、毒を飲んで自殺。
全く心が痛まないストリックランド。
その後舞台はタヒチへ。
ストリックランドはこの地に来て初めて安住出来る場所を見出し、残りの生涯をタヒチで過ごす。

画家「ポール・ゴーギャン」をモチーフとして描かれた小説。
100年前のイギリスで、半年に10万部ものベストセラーになり、結果的に前作の「人間の絆」が再評価
されて小説家としての地位を確立したモーム。
ストリックランド自体は、とても魅力ある人間としては描かれていないが、絵に対する情熱、精神性の高さ
により救われている。
実際のゴーギャンは、17〜23歳まで海軍で働き、その後絵を描き始め、25歳で結婚。
仕事は株式取引。35歳で画家になり、その後妻は子供を連れて実家のコペンハーゲンへ。
43歳でタヒチに渡り、そのまま定住。55歳で死去。

「月」は狂気に導く芸術的情熱、「六ペンス」は主人公が捨て去った物質的な束縛を現す(らしい)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版 発表年
賢者の石       コリン・ウィルソン  創元推理文庫  1971

ハリーポッター、ではない。圧倒的な知識量を持った作者が書いたSF小説。  
あらすじ
舞台はイギリス。「私」−−−早熟で知識の目覚めも早い少年が、子供のいないライエル卿と出会い、養子となる。ライエルと学問、哲学等について高め合うが、ライエルは途中で死ぬ。頭脳の優れた者は長命である事を統計的につかんで、「私」はその方面の研究を行う。
その後、終生のパートナーとなるリトルウェイと知り合う。鳥瞰的視野に対する洞察。
事故で脳脊髄液を失った男の行動に注目した「私」とリトルウェイは、その男を研究し、人間の脳の中でも前頭葉にその秘密があると確信して、アル中患者を実験台とし、脳内に特殊な金属を埋め込むテストを行う。めざましい反応、脳の活性が著しく向上。
そして「私」もその手術を行い、別の次元の精神世界へと踏み出す。
過去を透視する能力、人の心を読み、人に意識を投射、ひいては物を動かす能力まで持ち得る様になる。
相棒のリトルウェイも手術を受け、協力して様々な問題に取り組む。
ストーンヘンジを初めとする太古のものに付きまとう不安な要素。透視しようとするが、妨害に会う。マヤ文明、古き者たちの存在。全ての謎を握る「ヴォイニッジ原稿」。究明に対する妨害。危険にさらされる2人。
非常な努力の末に謎は解かれる。人間は「大いなる古き者ども」の下僕として生まれた。ムー大陸を軸として栄えたが、突然のアクシデントで彼らは滅びる、もしくは永い休眠の状態となる。
全てを知った2人は、古き者どもが目覚める前に、人間が「下僕」ではなく対等に立ち向かえる「主人」となれる様、行動を起こし始める。
感想
作者は知識がありすぎて、時として話が末節の方に傾いたりするが、一貫したテーマは人間意識の拡大。ヴィジョンという言葉が良く出てくるが、単に見るのではなく、意識を拡大した先にあるものがなんであるかという、深みに入り込む様な快感に誘われる。ただ、ここまで引っ張った揚句がムー文明かよ、という不満もあり、もう少し精神世界に踏み込む話であってもよかったか。15年ほど前に読んで、今回長い出張の折りに読み返したのだが、メモでも取りながらもう一度読んでみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版
人間の条件     アンドレ・マルロー           

舞台は1927年の中国。蒋介石が南京に国民政府を樹立し、共産党を弾圧した頃の話。
はしょって言えば、蒋介石の率いる国民党とコンミュニストとの戦いを追ったもの。
主人公は「陳」という若者。陳は命を賭して蒋介石もろとも爆破を試みるが、その車に蒋介石は乗っていなかった。
この物語で特に「人間の条件」について肉薄しているのはジゾール老。陳の同志の父。権力という考えの中で人間を魅惑するのは、権力のおかげで何でも出来るという幻想。人間の世界で人間以上の者になろうと欲する---人間の条件から脱しようとする。
神の理想は「自分の力はいずれ再び見出せるという事を知りつつ人間になる事」であり、人間の夢は「自分の人格を失わないで神になる」という事。
原作者がフランス人であることが意味深い。お薦めと言いながら、今は入手困難。  
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

題名 著者 出版
ザ・ゴール     エリヤフ・ゴールドラット    ダイヤモンド社

訳:三本木 亮
要するにビジネス書。2年ほど前に流行ったらしいが、その時はゼンゼン知らずに、今回遅ればせながら読んでみた。
経営不振に陥った会社の工場長。3ケ月で状況を改善しないと工場閉鎖されるというピンチの中で再生を模索する。
忙しすぎる中での、妻子との関係危機も交えて、小説としてもけっこう面白い。
でもこんなにうまくは行かないヨ、実際。

ただ、読んでいて(ゼンゼン話とは関係ないけど)「一所懸命」という言葉がキチンと使われているのが印象的だった。最近は朝日新聞まで読者におもねってか、「一生懸命」と平気で使う。そういえば、例の雅子様は公務を休む時のコメントでこの表現がキチンと出来ていた。
元々は、武士が「一つの場所を命を懸けて守る」という意味。一生、懸命になったら、それこそすぐに死んでしまうわな。

 

 

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